背番号70 〜谷哲也のラストチャンス〜

 交流戦好調だった中日ドラゴンズに暗雲が立ち込めた。二塁手で主力として上位打線を担っていた荒木が骨折したのだ。そこで生まれたチャンスを生かさないといけない選手がいる。背番号70、谷哲也内野手(28歳・7年目)だ。

「今年は勝負の年です。」
 キャンプでそう話す若手選手をよく見かける。1年目に挫折した2年目の選手がそう話すこともある。そのような選手は自分で発破をかける意味で話している場合が多い。
 しかし、谷は自分で話す話さないにかかわらず、「勝負の年」そして「最後の年」であることを突き付けられている。それは彼の背中が物語っている。

呪われた背番号
 谷の背番号は70。今年、落合博満氏がGMが就任したことにより、大幅な背番号のシャッフルが行われた中で、谷の背番号も変更されたのだ。他の選手も変更が行われ、主力選手の平田や期待の若手選手の高橋周の背番号変更は大きく報じられた。一方、谷は主力選手ではなかったが、彼の背番号変更は一部のドラゴンズファンの間で話題となった。それは、なぜか。
 落合氏の監督時代、背番号70をつけた選手は4人いた。そして、その選手全員が背番号70をつけた年、戦力外通告を受けている。そこからファンも谷が戦力外寸前であることを知っていたのだ。
 しかし、「背番号70=戦力外通告」というわけではない。なぜ、背番号70かといえば、一軍に出場できる支配下登録の上限人数が70名であるからだ。そこからもわかるように、「まだ」一軍のメンバーになりえるのだ。

谷のセールスポイント
 では、なぜ彼はそのような背番号を背負うことになったのか。
 彼は投手出身で身体能力が高いということで遊撃手のレギュラーになることを期待された。守備が課題ではあったが、多くの二軍の試合に出場した。しかし、出場を重ねても守備は安定せず、高い守備力が必要とされる遊撃手での出場は減り、他のポジションで出場することが多くなった。そのうち、年齢を重ね、若手選手を起用するため、彼の出場機会は限られるようになった。二軍に置いておくことも難しくなってしまったのだ。しかし、内野の層が厚くないこと、打撃は悪くないことから、もう1年様子を見ることになった結果が、背番号70だった。

打って打って打ちまくれ 
 6月1日の西武戦、谷は打撃で魅せた。途中出場でありながら3打数2安打。ライバルのエルナンデス本塁打を放ったが確実性に乏しく、堂上直は打撃絶不調、森越の打撃は開眼していない。おそらく、谷がスターティングメンバーに名を連ねることになってくるだろう。しかし、彼は結果を残し続けなければ、チャンスをつかむことはできない。前に挙げた3人は非常に守備力が高いことに比べると、谷の守備はかなり劣るからだ。
 とはいえ、急に守備が上手くなるわけがない。だから、打つしかない。守れなければまた同じで戦力外になるだけではないかと言われてしまうかもしれない。確かにそうなる可能性はあるが、道が開けるのだ。

ラストチャンス
 戦力外になった選手が集まる場所がある。シーズンオフに2度行われるトライアウトだ。近年は戦力外通告を取り扱うテレビ番組が増えて、目にする機会も増えた。そのような番組では、トライアウトで結果が残せるかということが、クライマックスに持っていかれることが多い。それにケチをつけることになるが、残念ながらトライアウトの結果に大きな意味はない。戦力外選手同士で「打った」「抑えた」としても、一軍での活躍を保証することにはほとんどならないからだ。
 だから、その前にアピールしておく必要がある。一軍で打てば、一軍で打った選手という箔がつく。たとえ、戦力外通告を受けても、次の活躍の場が生まれる可能性が広がる。
 また、このチャンスは長くは続かない。荒木が戻ってくれば、ショートを守れない谷の出場機会は再び限られてくるだろう。しかし、打っていけば、不足している右の代打としてのチャンスも出てくる。あらゆる意味で、ラストチャンスなのだ。
 だからといって、焦ってプレーしてはいけない。本来の実力が発揮できなくなる。代打からの途中出場という難しい状況で2安打できたのだ。自信を持て。普通にやれば一軍でも打てるはずだ。

 谷がNPBの来年の支配下登録枠に入ることを願っている。